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富山家庭裁判所高岡支部 昭和48年(少)250号 決定

少年 H・A(昭二九・一一・五生)

主文

少年を中等小年院に送致する。

押収にかかる白色軍手一双(昭和四八年押第一九号の一二)は被害者○階○高に選付する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は

第一他人の家屋等に放火してうさばらしをしようと企て、

一  昭和四八年五月二二日午前四時五〇分頃、当時自己が勤務していた高岡市○○×××番地所在の○○株式会社の木製瓦葺二階建製品倉庫(延面積七一五・二五平方メートル)に差しかけとして建てられた木造瓦葺平家建機械置場(四五・一平方メートル)において、同所東側の食器棚に所携の新聞紙約四枚を突つ込みこれに所携のマツチで点火して火を放ち、よつて食器棚を経て、現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない上記機械置場および製品倉庫に燃え移らせ、これらを全焼させて焼燬した。

二  同年五月二八日午前一時四五分頃、たまたま通りかかつた小松市○○町××番×号所在の○井○松所有の現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない木造トタン葺平家建建設資材倉庫兼車庫(一〇八・九平方メートル)を焼燬しようと企て、その結果隣接の現に人の住居に使用する○浅○一所有の木造瓦葺二階建居宅(延面積一〇七・二平方メートル)および○後○ら所有の木造二階建居宅(延面積一〇六・九平方メートル)等に燃え移るに至るかも知れないが、それもやむを得ないと決意し、上記資材倉庫兼車庫において、奥に積んであつたダンボール箱に所携のボスター二枚をまるめて入れ、これに所携のマッチで点火して火を放ち、よつて上記資材倉庫兼車庫に燃え移らせ、さらに現に人の住居に使用する上記二階建居宅二棟ならびに隣接する○津○平所有の住居兼店舗横の垣板(六六・四平方メートル)を全焼させて焼燬した。

三  同日午前三時四〇分頃、たまたま通りかかつた金沢市○○町×番×号所在の○俣○三所有の現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない木造トタン葺一部二階建資材倉庫(延面積二〇〇平方メートル)を焼燬しようと企て、その結果隣接の現に人の住居に使用する○田○茂所有の木造瓦葺平家建居宅(六八平方メートル)、○田○世所有の木造瓦葺二階建居宅(延二八〇平方メートル)、○谷○雄所有のトタン葺二階建居宅(延八三平方メートル)および○田○月所有の木造二階建居宅(延六六平方メートル)等に燃え移るかも知れないが、それもやむを得ないと決意し、上記資材倉庫において、同倉庫内にあつた竹材の間に所携の新聞紙約四枚をねじ込み所携のマッチで点火して火を放ち、よつて上記資材倉庫に燃え移らせ、さらに現に人の住居に使用する上記居宅四棟ならびに隣接する現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない○○株式会社○○営業所木造トタン葺二階建事務所(延一〇四平方メートル)を全焼させ、現に人の住居せず、かつ人の現在しない○田○世所有の木造瓦葺土蔵二棟(延七三・三平方メートル)を半焼させて焼燬した。

四  同日午後七時四〇分頃、たまたま通りかかつた永見市○○町×××番地所在の○代○一所有の現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない木造瓦葺一部トタン葺平家建物置小屋(二八平方メートル)を焼燬しようと企て、その結果隣接の現に人の住居に使用する○保○所有の木造瓦葺二階建居宅に燃え移るかもしれないが、それもやむを得ないと決意し、上記物置小屋において南側に積んであつた木箱内に所携の新聞紙約四枚をまるめて入れ、所携のマッチで点火して火を放ち、よつて同物置小屋に燃え移らせ、さらに現に人の住居に使用する上記居宅の玄関外側腰板および玄関天井等(二五〇平方メートル)を焼燬した。

五  同日午後九時三〇分頃、たまたま通りかかつた富山市○○×丁目×番×号所在の○○株式会社○○支店の木造二階建第一〇号倉庫(延面積二七〇平方メートル)に差しかけとして建てられた木造平家建物置小屋において、同所においてあつた新聞紙に所携のマッチで点火して火を放ち、よつて現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない上記物置小屋及び倉庫を半焼させて燃燬した。

六  同月二九日午前一一時一〇分頃、たまたま通りかかつた富山県射水郡○○町○○○××番地所在の○本○雄所有の居宅に接続して建てられた同人の住居の一部として使用されていた同人方横裏側木造トタン葺平家建納屋(六・六平方メートル)に、同所にあつたワラ等に所携のマッチで点火して火を放ら、同納屋に燃え移らせ、よつて現に人の住居に使用する同納屋を全焼させて焼燬した。

七  同日午前一一時五〇分頃、たまたま通りかかつた高岡市○○○×××番地所在の○田○市所有の現に人の住居に使用せず、かつ人の現在しない木造二階建瓦葺車庫兼倉庫(延五四・四平方メートル)に、同所にあつたワラ等に所携のマッチで点火して火を放ち、同建物に燃え移らせ、よつて同建物の北側壁体(三・三平方メートル)および屋根(一九・八平方メートル)を焼燬した。

第二

一  昭和四八年五月二二日午前四時三〇分頃、高岡市○○町×番××号○田○治方前軒下において、同所にあつた同人所有の男女兼用軽快自転車(登録番号○○×××××番)一台(時価約五、〇〇〇円)を窃取した。

二  同月二八日午後一〇時二〇分頃、富山市○○町×番××号富山市立○○小学校グラウンド北側路上に駐車中の○階○高所有にかかる普通貨物自動車(○××○××××号)の運転台にあつた同人所有の白色軍手一双(時価約四〇円)および懐中電灯一個(時価約五〇円)をそれぞれ窃取した。

三  同月二九日午後一時頃、高岡市○○×××番地○島○雄方作業納屋にあつた同人所有の中古自転車(車体番号×○××××号)一台(時価約六、〇〇〇円)を窃取した。

ものである。

(適用法令)

少年の判示第一の二ないし四および六の各所為はいずれも刑法一〇八条に、判示第一の一、五、七の各行為はいずれも同法一〇九条一項に、判示第二の各行為はいずれも同法二三五条にそれぞれ該当する。

(処遇意見)

少年は昭和二九年一一月五日富山県において父H・K、母H・E子の二男(末子)として生れ、幼児期は身体は大きかつたもののことばや歩行等の面ではむしろ遅い方であり、同三六年四月小学校に入学後も、成績が劣つていたため、小学校二年生及び三年生の時には特殊学級に編入され、その後も学校の成績はかんばしくなく、同四五年三月中学校を卒業するまで、成績は、ほぼ最下位の状態であつた。中学校卒業後新湊市にある株式会社○○製作所に就職して、旋盤の仕事に従事し、同四七年三月から本件各非行に至るまで、高岡市○○にある○○株式会社に出向して働いていたが、作業態度は時折欠勤するほかは出勤している限り真面目であつた。

少年の性格は無力感や劣等感等に陥りやすく、忍耐力は余りなく、困難な場面に遭遇すると逃避的になりやすく、いつもみたされない気持ちをもつているというものであり、上述のとおり少年は学校時代、成績が不良であつたため、両親等周囲の者からも、そのような見方をされ、扱われ、特に上述のとおり特殊学級に編入されたことにより、少年は後々まで劣等感を強くもつようになつた。

また、少年の逃避的になりやすい性格は、小学校四年生の時に、成績が悪く、勉強が嫌で、燃やしてしまえば勉強しなくて済むといつた気持ちから学校の教室の机を燃やしたり、中学校二年生の時に大阪方面に家人に無断で遊びに行つたり、また、就職後も家人に無断で関西、名古屋、青森、東京等へ旅行するという形であらわれていた。

そして、少年は、本件各非行のうち、第一の一については会社の上司に注意されたことをその動機として説明しているものの、その余の非行については、その動機を明確には説明できないでいるが、結局、少年は、各非行前に、仕事を休み、家人に嘘をついて帰宅しなかつたりということが自分の重荷になり、日頃仕事が余り面白くなかつた不満等がかさなり、前述のとおりいつも満たされない気持ちを発散させるために敢行したものと考えられ、上記一連の行為の延長線上にあるということができる。

したがつて、少年の性格を矯正できない限り、今後もなんらかの形で、非行があらわれると考えられるが、少年は前述のとおり小、中学校在学中の成績は不良であつたものの、中学校における教研式知能テストの結果によれば知能指数は七六ないし八一であり、今後の訓練如何によつては知能も向上する余地をもつており、また、その余の点でも十分に改善することができると考えられる。

ところで、少年の家庭環境をみるに、父は農協理事をつとめる等社会的信用もあり、母も温厚であり、また兄も会社員として真面目に勤務しているのであり、特に問題とすべき点はみあたらないが、少年が学校で成績が不良であつたり、健康もそれほどすぐれなかつたこともあって、少年に対するしつけは厳しく行われていなかつたものと考えられ、少年に対する上述のような訓練を今直ちに少年の家庭に全面的に委ねることは適切ではないといわざるをえない(勿論、今後、長い目でみるならば、両親等周囲の者が、少年に対し、従前のように低知能者として扱う態度を改め、必要な指導を十分に行わねばならないことはいうまでもない。)

しかして、少年に対する訓練は同年代の少年と集団的に行われることが最も適切であると考えられるので、この際、少年を施設に収容することが適当である。

よつて、少年法二四条一項三号。少年審判規則三七条一項、少年院法二条、少年法一五条二項、刑事訴訟法三四七条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐野正幸)

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